その機能、使う人の一日をどう変えますか?

新しい機能を、ひとつ足す。
説明を、もう少し増やす。
選べるものを、もっと広げる。

商品やサービスを良くしようとすると、何かを「足す」方へ目が向くことがあります。
足したものは目に見えるので、前との違いも説明しやすい。

でも、その機能が増えたことで、使う人の一日は、どんなふうに変わるのでしょうか?

この記事で伝えたいのは、一つです。

機能を足す前に、使う人の一日がどう変わるかを見る。

 

便利を足したのに、迷いが増えるとき

三菱電機の「なぜ今、三菱電機が『意味中心』のイノベーションに取り組むのか。東京大学・NEW STANDARDと挑む、次世代のものづくり(※1)」という記事を見つけました。

記事では、三菱電機がこれまで、高い機能や性能、効率など、数字や仕様で示せる価値を追求してきたと説明しています。機能を増やし、性能を上げ、効率を良くする。どれも、商品やサービスを良くするために大切なことです。

ただ、測りやすく、社内でも合意しやすい機能的な価値に寄りかかり、使う人が求めている以上の高機能化へ進んでいた可能性も語られていました。

便利にしようと選択肢を増やし、分かりやすくしようと説明を増やしたのに、使う人は前より迷うようになる。
そんなこともあります。

機能が増えたかどうかは、すぐに分かります。

けれど、その人が迷わなくなり、使ったあとに次の行動へ移りやすくなったかどうかは、機能の一覧を見ているだけでは分かりません。

作る側から見ると、追加は仕事として扱いやすいものです。

項目を増やす。新しい画面をつくる。できることを一覧へ加える。
終わったかどうかを確認しやすく、前の版との違いも説明できます。

一方、「使う人の一日がどう変わったか」は、画面だけを見ても分かりにくい。
だからこそ、足したものの数だけで改善を見ないことが大切なんだと思います。

 

機能の数で、改善は見える?

三菱電機と東京大学は2025年9月、意味的価値や社会的価値を生み出すデザインエンジニアリングを扱う社会連携講座を開設しました。(※2)
2026年4月にはNEW STANDARDが参画しています。

扱うのは、機能や性能だけではありません。
それが人や社会にとって、どんな意味を持つのか。
そこまで含めて、製品やサービスを設計していこうとする取り組みです。

「何ができる商品ですか?」
この問いなら、機能を並べることで答えられます。

では、「その商品があることで、使う人の一日はどう変わりますか?」と聞かれたら、どうでしょう。

朝の準備が軽くなり、迷っている時間が減って、後回しにしていたことへ手をつけやすくなる。
同じ機能でも、誰が、どんな場面で使うかによって、持つ意味は変わります。
作る側が渡すのは機能でも、使う側が受け取るのは、その先に生まれる時間や行動です。

だから、機能の名前だけで考えない。

その人が使う直前に何をしていたのか。
使ったあと、次に何をしたのか。
その短い間に起きた変化を見る。

足す前に見たいのは、機能の名前ではなく、その前後にある一日の変化です。
「意味中心」という言葉を、自分の商品やサービスへ置き換えるなら、まずはここから始められそうです。

 

「お客様が価値を決める」を、一日の動きへ

僕が2021年に書いた「社会の中においての『仕事の価値』を決めるのはお客様である(※3)」では、社会の中における仕事の価値は、お客様が決めると書きました。

同じ年に書いた「あなたの商品やサービスによって、得られる価値・経験は何だろう?(※4)」では、自分の商品やサービスによって、相手が得られる価値や経験は何だろう、と問いかけています。

作る人が「便利になった」と思うことと、使う人の一日が本当に便利になることは、同じとは限りません。
だから、「価値はお客様が決める」という言葉を、今回は一日の動きへ置き直してみます。

この機能によって、何ができるようになるのか。

それだけではなく、
この機能によって、その人の一日はどう変わるのか。

朝から夜まで、すべてを知る必要はありません。
使う直前、その人は何をしていて、どこで手が止まっていたのか。使ったあと、次に何をしたのか。

その前後を見れば、作る側が思っていた「便利」と、使う人が受け取った変化の違いが見えてきます。

価値を決めるのはお客様。
その価値を確かめる手がかりは、使う人の一日の中にあるのだと思います。

 

その一項目は、誰のため?

たとえば、申込フォームに項目をひとつ足すとします。

運営する側には、後の確認がしやすくなる。
申し込みのあとに聞き直す手間も減ります。

作る側から見ると、便利な一項目です。

では、申し込む人の一日は、どう変わるのでしょうか?

思い出して書くことが増え、途中で手が止まるかもしれない。
反対に、選択肢がひとつあることで、自分の状況を言葉にしやすくなることもあります。

同じ一項目でも、運営する人には確認のしやすさが生まれます。

申し込む人には負担になることもあれば、迷いを減らす助けになることもある。

項目を足しただけでは、答えは分かりません。

見たいのは、項目の数ではなく、その項目の前後で、使う人の動きがどう変わったかです。

その人は、いつ使うのだろう?
使う直前には、何に困っているのだろう?
使ったあと、何をしなくてよくなるのだろう?

画面の向こうにいる人の一日まで見て、ようやく、その一項目を足す意味が分かります。

 

紙の左右に「使う前」と「使った後」

次に何かを足したくなったら、その前に紙を一枚用意してみませんか。

左側に「使う前」。右側に「使った後」。
その間に、足そうとしている機能を置いてみる。

使う前、その人は何に困っていたのか。
使ったあと、何をしなくてよくなるのか。
次の行動は、どう変わるのか。

もし変化が思い浮かばなければ、実際に使ってくれた人を一人だけ思い出してみる。

その人の朝から夜まで、全部を知る必要はありません。
使う直前と、使った直後。

まずは、その短い時間を見るだけでもいいと思うんです。

足した方がよいものが、見えてくることもあります。
足さなくてもよいものに、気づくこともあります。

機能を増やすことが悪いわけではありません。
大切なのは、増やしたことを改善のゴールにしないこと。
その先にいる人の一日まで見る。

次に何かを足そうとしたとき、一度だけ問いかけてみてください。
「これが増えることで、使う人の一日は、どう変わるのだろう?」
次に足すものを決める前に、まず、その人の一日を見てみる。

 

注記・参照した記事

1. 三菱電機「なぜ今、三菱電機が『意味中心』のイノベーションに取り組むのか。東京大学・NEW STANDARDと挑む、次世代のものづくり— 「意味的価値」の時代へ/産学共創で挑む「意味のエンジニアリング」と「オープンイノベーション」」
https://www.mitsubishielectric.co.jp/our-stories/articles/svde01/
2. 東京大学大学院工学系研究科「三菱電機と東京大学が意味的価値を創造する社会連携講座を開設:意味中心のデザインエンジニアリングにより豊かな未来社会の実現に貢献— 発表概要、2025年9月1日」
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2025-09-01-001
3. 本サイト内「社会の中においての『仕事の価値』を決めるのはお客様である— 2021年3月7日記事」


4. 本サイト内「あなたの商品やサービスによって、得られる価値・経験は何だろう?— 2021年3月9日記事」
https://lion-cafe.com/my-treasure/20210309_work-value-experience/

 

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