聞きたいことを集めても、目の前の相手は見えてこない

たとえば、面談の前に、質問を何個も用意したとします。聞く順番を決め、時間の配分を考え、話が広がったときの予備の質問もつくった。ここまで準備していれば、安心して話せると思っていた。

ところが、相手が予定とは違う話を始めた瞬間、頭の中が忙しくなる。

この話を、どこで戻そう。

次の質問まで、あと何分だろう。

聞くはずだったことが、まだ残っている。

目の前では相手が話しているのに、自分は質問票の続きを追いかけている。

 

段取りがおじゃんになった収録

橋本達典さんが取材・執筆した、テレ東プラスの記事「『カンブリア宮殿』×三谷幸喜1000回SPでハプニング!?金原ひとみ×ヒャダインが明かす舞台裏」(2026年8月27日公開)を読みました。

記事では、金原ひとみさんがゲストの人物像や生い立ちを深く掘り下げ、ヒャダインさんが視聴者に近い目線と自分らしい言葉、アドリブの質問で会話を広げると紹介されています。

三谷幸喜さんとの収録で、金原さんは初めてほとんど台本を見ずに話したそうです。用意していた段取りや質問は崩れた。それでも話し終えると、聞きたかったことはすべて聞けていたと振り返っています。

ここまでが記事で確認できたことです。ここからは、この記事を読んで僕が考えたことです。

僕は、「最後には、聞きたいことを全部聞けた」という結果より、目の前の相手を知る会話になっていたかを大切にしたい。たとえ、用意した質問が残ったとしてもです。

 

質問票ばかり見ていた時間

質問を準備することは、大事です。面談や面接、時には会話にも、目的があり、限られた時間があり、確認しなければならないこともあります。

準備した質問は、その時間に入っていくための地図になります。

ただ、「自分が聞きたいことを全部聞く」に意識が寄ると、地図に書いた道から外れることが怖くなる。

相手が予定と違う話を始める。

思っていたより、一つの話が長くなる。

質問への答えとは違う出来事が語られる。

そんなとき、相手の話よりも、聞けていない質問、崩れてしまった順番、残り時間ばかりが気になってしまうことがある。

そして、会話を元の道へ戻そうとする。相手が話している途中でまとめる。こちらの言葉に置き換える。次の質問に合うところだけを拾う。

聞きたいことは聞けるかもしれません。

ただ、その時間、僕の視線は相手を離れ、質問票へ向いています。

 

会う前の自分が作った質問票

質問票に書けるのは、相手に会う前の自分が思いつけたことです。

相手の事前情報や経歴を読んで考えたこと。

これまでの経験から、きっと大事だろうと思ったこと。

今回の目的なら、確認しておきたいと決めたこと。

どれも、会話へ入るためには役立ちます。

ただ、目の前の相手は、会う前の自分が考えた範囲だけにいるわけではありません。

相手が最初に選んだ話。

自分の予想とは違った答え。

質問票にはなかったのに、相手が続けて話していること。

僕は、そうした予定外のものを、すぐに「今は要らない話」と決めないでいたいんです。

相手を知るとは、会う前の自分には思いつかなかったことに出会うことでもある。

だから、質問票から外れたときに、慌てて元へ戻す必要はないんじゃないかな。

相手との話の流れに乗ればいい。

 

質問票と、目の前の相手

相手を知るとは、何だろう?

僕は、自分が用意した質問への答えを集めることではないと思っています。

会話の途中で向けたい問いがあります。

いま、相手は何について話しているのだろう。

どの言葉を、実際に使ったのだろう。

なぜ、その話をしているのだろう。

どんな、表情をしていて、どんな想いで話をしているのだろう。

そして、自分は、相手の話を聞くよりも、段取りへ戻そうとしていないだろうか。

これは、本音を見分ける方法ではありません。相手の内側を、こちらで決めるための観察でもありません。

聞き手である自分の意識を、質問票から目の前の相手へと戻すための問いです。

相手を知ることに重きを置けば、段取りが崩れたことを、すぐ失敗にしなくていい。

まず、いま始まっている話を聞く。

そのあと、時間や目的に合わせて質問票へ戻ってもいい。

僕が言う「流れに乗る」は、まず今の話を受け取り、それから時間や目的に合う場所があれば、質問票へ戻る。
相手の話の流れに身を委ねるわけでもなく、相手の流れの上で分岐を選んでいく。
必要な確認も、限られた時間も大切にしたまま、相手の話を聞かずに段取りへ戻ることだけを急がない。そのくらいのことなんです。

人生相談になった面接

僕は人事として、3,000人以上の採用面接に関わってきました。その中で、新卒採用面接では学生が思わず素を見せ、涙を浮かべ、面接が人生相談になることもありました。

面接には確認したいことがあります。時間もあります。質問する側と答える側、という役割もあります。

それでも、質問と回答だけでは収まらない時間が、実際にありました。

その時間が、どんな質問や聞き方によって起きたのか。因果は記録に残っていません。今回の考え方の効果を証明する体験とすることもできません。

僕が言えるのは、面接が人生相談になり、質問と回答だけでは収まらない時間があったということ。

もし、そこで「この質問への答えではない」と話を戻していたらどうなったのか。それも、分かりません。

ただ、相手を知ろうとしながら、こちらが用意した質問の中だけへ相手を収めようとする。その矛盾は、忘れないでいたいと思っています。

 

相手の一語へ戻る

段取りが崩れて焦ったときは、次の質問を探す前に、相手がいま話していることへ戻ります。

そのための小さな動きとして、気になった言葉を返す方法があります。

たとえば、相手が「本当は」「なぜか」「仕方なく」「昔から」と話したとき。

それを本音だと決めつけず、

「今、“本当は”と言いましたね」

「その“なぜか”を、もう少し聞いてもいいですか?」

と、そのまま返してみる。

言葉を返すのは、自分が用意した段取りから、相手がいま話している流れへ戻るためです。

続けるかどうかを決めるのは相手です。話したくなさそうなら追わない。時間や目的へ戻る必要があれば、質問票へ戻る。

質問票は持ったまま、段取りより先に相手を見る。

 

次の会話で確かめたいこと

次に、用意した流れとは違う話が始まったら。

すぐ元へ戻そうとする前に、ひとつだけ自分へ聞いてみてください。

いま守ろうとしているのは、相手との会話だろうか。

それとも、自分が用意した段取りだろうか。

聞きたいことを全部聞けたかどうかは、会話のあとで確認できます。

でも、そのとき相手が差し出していた言葉は、急いで通り過ぎたら戻ってこないこともあります。

相手を知るとは、自分が聞きたいことを聞くことじゃない。

用意した質問から外れたところにも、その人はいる。

段取りが崩れたときこそ、質問票ではなく、目の前の相手へ戻ってみませんか?

 

あわせて読んでほしい: 話さないことのメリットを考え、実行する
こちらは、聞き手が自分の話をしすぎず、質問で会話を動かす話です。

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